2019年4月から、日本を出国する際に一人あたり1,000円の「観光促進税」が導入されることになりました。
昨年まで全く議論に上がってこなかったのに急に決まったこの新税、新税の創出は1992年に導入された「地価税」以来27年ぶりだそうです。
- 観光促進税の概要
- 税金はどう使われるべきか?
- 日によって混雑したりしなかったりする成田の到着ロビー
- 到着出口を片側しか使用していない成田
- CIQに人がいないのか?
- 観光促進税はまずCIQ体制の充実に使ってほしい
観光促進税の概要
これまで東京都のように「宿泊税」として東京都内に宿泊する人を対象に1泊100円または150円徴収し、観光振興にかかる費用にあてたりといった地方独自の例はありましたが、今回は国税として恒久的に徴収するようです。
今のところ、「観光促進税」の概要は以下のとおりです。
■金額 航空機・船舶など交通機関の形態にかかわらず、出国1回あたり1000円
■対象者 国籍を問わず日本を出国するすべての人
■徴収方法 航空運賃を支払うときに徴収する。船舶の場合は実態をふまえて精査
■導入時期 2019年1月もしくは4月からを検討
出国すると1人1000円 観光促進税(出国税)で得するのは誰だ! | 文春オンラインより
徴収しやすいように空港使用料のように航空運賃に乗せて徴収するものと思われます。すでに空港使用料を徴収する仕組みがあるため、航空各社のシステム的に対応が簡単だからです。その一方、乳幼児や単なる乗り継ぎ客からも徴収するのかといった、どこまでを徴収の範囲とするのかという区分わけには課題が残ります。
税金はどう使われるべきか?
また、各新聞や旅行業界が口を揃えて言っているのが、「使いみち」の問題です。
税収の使い道ははっきりしない。提言では「日本のプロモーション強化や出入国手続きの円滑化」に使うというが、抽象的な点は否めず、観光と関係の薄い事業に使途が広がる懸念もある。
出国税「千円以内」、有識者会議が提言 日本人も対象:朝日新聞デジタル
JTBは、「極端に高くも安くもない。バランスの取れた金額」との認識。同財源の使用目的を「観光振興に限定するのは大前提」とした上で、負担者のメリットを考慮した使途が必要とし、特に日本人出国者に係ることを踏まえて「若年層のパスポート取得促進」策などを例示した。
JTB、「出国税」の金額や使途に言及、日本人のメリットや旅行会社の代理徴収に配慮を希望 | トラベルボイス
400億円のうちいくら使えるのかはわからないが、ハードのインフラに使ってしまえば、すぐになくなる。人材やすでにあるものを改善するようなソフトインフラに使うべきだろう。
(日本旅行業協会(JATA)理事・事務局長の越智良典氏)
「出国税」の使い道はどうすべき?——若者の海外旅行促進に向けた提案募集中 | BUSINESS INSIDER JAPAN
「税収が観光の必要な施策に使われるよう一定の縛りをかける条項と、野放図な支出につながらないような(法律による)規定が必要」との考えを示した。
(中略)
「新財源は、海外への旅行者に対しても一定の施策を講じるために使うのでは」とコメント。あわせて「空港での出入国の円滑化や保安対策、施設の利便性向上や受入環境の整備などについては、日本人も直接的なメリットを感じられるのでは」と主張した。
(観光庁長官・田村明比古氏)
出国税の使途、外客誘致法改正で明示か-長官会見 | 旅行業界 最新情報 トラベルビジョン
出国税の使途については、パスポート取得の際にマイナンバーを活用するなどして、手続きを簡素化することを提案。加えて、旅行者保護の観点から、添乗員付ツアーの参加者の迅速な安否確認を可能にするための「旅行のプロ用の『たびレジ』のようなもの」も提案するという。
(JATA副会長の菊間潤吾氏)
JATA、年度内にも観光庁に出国税の使途提案、若者の海旅支援など | 旅行業界 最新情報 トラベルビジョン
政府は海外での訪日PRの強化のほか、案内標識の多言語化や出入国管理の円滑化といった受け入れ環境の充実に活用する方針。
【電子版】出国税19年4月から実施 1人1000円―政府・与党 | 政治・経済 ニュース | 日刊工業新聞 電子版
そもそもこの税の導入自体が適切かどうかは置いておいて、やはり税金を徴収するからにはきっちり使いみちを決めてもらわなければなりません。出典がすぐ見つけられませんでしたが、政府内では約400億円と見積もられる観光促進税の使いみちを巡って既に綱引きバトルが行われているという記事も…
日によって混雑したりしなかったりする成田の到着ロビー
ここで、下の2枚の画像を見てください。どちらも成田空港第2ターミナルの到着ロビーを写したものです。
急になぜ?と思うかもしれませんが、ここに観光促進税の使いみちのひとつはこうあるべきだという私なりの答えが隠れています。
左はガラガラですが、右の写真では急に人が増えました。同じ場所で人がいるときといないときに撮影しただけでしょ?と思うかもしれませんが、それぞれ違う日の同じ時間に撮影したものです。
飛行機のダイヤは基本的には毎日同じ。多少の到着時間のズレはありますが、夕方の17時前後は、成田空港では毎日到着便で混み合っている時間になります。
なぜ左の写真では人がほとんどいないのに右の写真では人で溢れているのか?
その答えは、第2ターミナルの到着出口の運用方法にあります。
到着出口を片側しか使用していない成田
東日本大震災後の節電・省エネムードの頃から、第2ターミナルの出口は2箇所のうち1箇所のみを運用する方法に変更されました。
東日本大震災以後、2カ所ある審査場を1カ所で運用する状態が続いていることが要因
成田の入国審査場「渋滞」 震災後1カ所に、イメージ悪化懸念 :日本経済新聞
出口の前には税関、その前には手荷物引渡場、その前には入国審査、検疫がそれぞれ設置されているので、それらを片側のみに削減することで、使用電力を減らすことができるというわけです。
しかし、それから約6年半経った今も、片側運用は続いています。
これは先ほどの左側の写真を撮った日のものですが、17時前後の到着便が集中するピークにもかかわらず、すべての到着便がA出口を使用することになっています。
出口中央には、「お出迎えの皆様へ」として出口は全てAを使用している旨案内する看板が立っています。
Aゾーンの方に行ってみると、通り抜けるのも大変なくらい人が多くいます。
CIQに人がいないのか?
ここからは私の推測ですが、CIQ(税関・入管・検疫の頭文字を取ったもの)に十分な予算がなく、故に両方の出口を開けるだけの人員がおらず、片側の出口しか開けられないのではないでしょうか?
上で引用した日経の記事(2015年)では、こう続いています。
震災後、外国の格安航空会社による同ターミナルへの就航が相次ぎ、訪日外国人も増加。航空会社側は「旅客の利便性向上のためにも2カ所での運用が必要」と要望するが、CIQによる具体的な動きは見られない。 CIQ関係者は「1つの機関の考えだけでは決められない」と語り、財務、法務、厚生労働、農林水産の各省に所管がまたがる縦割りの影響をほのめかす。
成田の入国審査場「渋滞」 震災後1カ所に、イメージ悪化懸念 :日本経済新聞
「現在片側だけで十分運用できているじゃないか」と言われるかもしれませんが、片側しか開いていないCIQのためにわざわざ反対側の到着ゲートから長い距離を歩いて遠回りしなければならず、さらに入国審査は混んでおり、片側の到着ロビーにだけ人が溢れ、バスの乗車券カウンターも出口の前のみ長い列ができ…という現状は「運用できている」とは言わないと思います。
(もちろん、繁忙期など乗客が多く予想されるときは両方の出口を開けている日もあるので、設備上や制度上の問題ではありません)
以前このブログへのコメントでひでき (id:hihi01)さんにも教えていただきましたが、今年度の航空局の予算では成田のCIQ施設整備などのために予算が割かれています。
ただしこれは、成田空港会社が実施するターミナルビルのリニューアル工事に合わせて、各省庁が管轄するCIQエリアも見た目をきれいにします!という工事なので、成田空港のCIQに人員が増えるわけではありません。
一方、法務省などではバイオカートの導入や顔認証による自動化ゲートの推進などによって、人員を増やすことなく入国審査にかかる待ち時間を減らす取り組みを進めています。
NHKのドキュメント72時間で成田の入国審査場が放送!今後入国審査は速くなるのか? - 成田空港を応援したい。
法務省:平成29年10月から顔認証ゲートの先行運用を開始します。
しかし、税関や検疫も同時に対応してあげないと、アンバランスになってしまいます。
観光促進税はまずCIQ体制の充実に使ってほしい
さて、すっかり長くなってしまいましたが、結論です。
CIQのシステムや人員を充実させてください。
400億円のうちいくら使えるのかはわからないが、ハードのインフラに使ってしまえば、すぐになくなる。人材やすでにあるものを改善するようなソフトインフラに使うべきだろう。
(日本旅行業協会(JATA)理事・事務局長の越智良典氏)
「出国税」の使い道はどうすべき?——若者の海外旅行促進に向けた提案募集中 | BUSINESS INSIDER JAPAN
ただ税金を使って施設を作ろうというのではありません、特に成田の場合はもう施設はあるのですから。どうぞよろしくお願いします。
あとできれば、保安検査をする人員の拡充や待遇の改善の方もよろしくお願いします。(税金を取る出国時に関係するところなので)